D
2021.11.07

Dが描く独特の世界観の根幹となるのが、ASAGIが綴る壮大な物語だ。時に連関するテーマから派生する外伝も登場し、全体像がより豊かに形作られてきた。その一例が2017年にリリースされたミニ・アルバム『愚かしい竜の夢』と<ヴァンパイア・ストーリー>の関係性である。東欧のブルガリアに伝承されるズメイという守護竜にまつわる逸話を元に、竜と人間との関係性を様々な事象と共に歌い上げていくものだ。
発売に伴うライヴも含めて、当時も説得力のある作品だったが、今回、Dがこのタイミングで取り組んだのが、フル・アルバム『Zmei』である。『愚かしい竜の夢』の6曲に加えて、「Draco animus」「Venom immunity」「Lamb's REM sleep」「Zmei」という新曲が書き下ろされ、さらにこの物語と深いつながりを持つ「花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~」(2010年発表の『7th Rose』に収録)をリレコーディング。タイトルからも想像できるとおり、本作は言うなれば、『愚かしい竜の夢』が完全版として大幅に刷新された内容だ。
すでに『愚かしい竜の夢』を耳にしていた人は、深みを増した今回の充実した仕上がりに頷かされるはずで、初めて彼らの音に触れる人であれば、持ち前の巧みな構成力を始め、バンドの高いポテンシャルに驚かされるだろう。この『Zmei』の制作の経緯や今の心境をメンバー全員に語ってもらった。

――今回、なぜ、『Zmei』というアルバムをリリースすることになったのか。まずはそこからお話をお願いします。今年3月にはファンクラブ会員限定ではありますが、本作にも収録されている「Draco animus」が配信リリースされましたから、その時点で何かしら考えはあったのかなと思いますが。
ASAGI : そうですね。さらに遡ると、バンド内では結構前にいくつかリリースしている既存のミニ・アルバムに、いつかのタイミングで新曲なり同じ世界観の楽曲なりを追加して、フル・アルバムのようなボリュームのあるもので、より深い世界観を堪能してもらいたいね、という話をメンバーにしたことがあったんですね。とはいえ、その時点では具体的なものはなかったんです。ただ、このコロナ禍で僕たちが続けてきた<ミュージック・ライヴ・ビデオ(M.L.V.)>という無観客ライヴの企画がありますが、その“Vol.3”を行うに当たって、何のコンセプトでいこうかなとなったときに、「愚かしい竜の夢」のミュージック・ビデオを撮影した大谷稲荷山で『愚かしい竜の夢 2021』を行うことを考えていたんですよね。そういった中で、当初はTsuneのバースデー・ライヴ(2021年3月7日)で披露する予定だった「Draco animus」をファンクラブ限定でリリースしたんですが、その制作に入っている頃から、併せてM.L.V.の準備をする中で、『愚かしい竜の夢』の曲をいろいろ聴き直すことも多かったんです。そこで改めてその世界観を振り返りながらどっぷり浸かっていたときに、ストーリーが広がりつつあったんですよね。となれば、当然、新曲が生まれてきそうな感覚も出てきますよね。そこで「Draco animus」を作ったときに、それに繋がる「Venom immunity」という楽曲があったらよさそうだなとは思っていたんですよ。
――それはどういった意味合いなんですか?
ASAGI : これは物語の内容に関わってきますが、「Venom immunity」は、Tsuneが司るカーバンクルというヴァンパイアの眷族である、竜族の友人のライデンシャフトが主人公の楽曲なんです。時系列でいくと、「Dragon Princess」「微熱 ~雨の幻想曲~」「Draco animus」となるんですが、まずカーバンクルをかばってライデンシャフトが毒矢を受けて、瀕死の状態になるんですね。それが「微熱 ~雨の幻想曲~」「Draco animus」とつながっていくんですが、そこでカーバンクルがライデンシャフトを助けるために、竜の始祖であるズメイに助けを求めに行くシーンを「Draco animus」で描いているんです。だから、次はズメイの血が抗体となって加わることによって、瀕死のライデンシャフトが復活を遂げるシーンを描けたらいいなと思ったんですね。ライデンシャフトは、毒の耐性を受けた新種の竜として脱皮して生まれ変わる。それが「Venom immunity」なんです。そういった中で続いて生まれてきたのが「Zmei」と「Lamb's REM sleep」なんですが、そのときに「配信ライヴの開催も含めて、これはフル・アルバムとして濃厚な世界観を感じてもらうのにはベストなタイミングかな」と思ったんですね。
――大谷稲荷山でのM.L.V.を行うことを決めたのはいつ頃だったんですか?
ASAGI : M.L.V.を始めるに当たって、以前から候補ではあったんですが、“vol.2”(2021年4月6日『桜花咲きそめにけり 2021』)が終わった辺りには言ってたかな?
HIDE-ZOU : そうですね。「次はもしかしたら『愚かしい竜の夢』かな?」みたいな感じでは話してましたね。
――第1回のM.L.V.(2020年12月26日『Vampire Chronicle 2020』)の際も前回も、そのテーマをさらに広げた新たな作品にという流れにはなっていませんから、やはり新曲として「Draco animus」が生まれたことが大きいのでしょうね。
ASAGI : そうですね。昨年末にロックハート城でのライヴ(M.L.V.)があり、ヴァンパイア・ストーリーとも関わりのある「Draco animus」が生まれたところで広がりを見せたんでしょうね。カーバンクルと竜族との深いつながり、そしてその母であるダリエと竜族との深いつながり……そういった部分で、完全に『愚かしい竜の夢』のモードに入っていったところはあると思います。
――『愚かしい竜の夢』というミニ・アルバムは、どんな作品だったと振り返りますか?
ASAGI : ズメイの伝説を元に6曲で描いたものでしたが、あのときはあのときで、すごくやりきった感じはあったんですね。そのうちに、先ほどお話ししたように、何かしらのタイミングで物語を更に広げてみたいなと思うこともあって。『愚かしい竜の夢』では、ズメイが人間の娘を愛することで竜人が生まれ、そこから竜族、竜の血を引く者たちが繁栄していく。では、いかにしてズメイが人間の女性を愛することになったのか。それが今回の「Zmei ~不滅竜~」になるんですけどね。つまり始まりの物語ということになります。Dの世界観での時間軸的には最古ですね。
――遡ると『愚かしい竜の夢』の制作時には、「花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~」があったことが伏線にはなっていましたよね。
ASAGI : それは間違いないですね。ブルガリアにある薔薇の谷を何かで目にしたときに、美しい景色だけではなく、その背景にすごく興味を抱いたんです。今は薔薇の谷と呼ばれているけど、もともとそこでは武器が作られていた。その場所に薔薇が咲き誇って、今は薔薇の谷と呼ばれている。そこにすごくロマンを感じて生まれたのが「花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~」ですが、薔薇の谷にまつわる物語もそうですし、もっといろいろストーリーを作っていけそうだなという感覚もあったんですよね。今回、「Zmei ~不滅竜~」では紀元前のトラキア文明の辺りを描いているんですが、18世紀ぐらいに薔薇の谷と呼ばれるようになるので、そこから数千年以上を経る中でゆっくりとその場所が育っていくというのもすごく美しい。しかし、その間には武器が作られていたり、いろいろな出来事がある。
――あの地域は戦いの歴史ですからね。
ASAGI : そうですね。だから、「花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~」も大きなキッカケになっていますが、ブルガリアの薔薇の谷だったり、伝説の竜だったり、そういったものをミックスさせて、Dならではのオリジナルの世界観が作れたらいいなと思ったんですね。
――その『愚かしい竜の夢』で描かれた物語がさらに詳説されるのが今回の『Zmei』と言っていいと思いますが、もちろん、ASAGIさんの話を聞けば、なるほどそういう着眼点があるんだなと納得もするんです。それと同時に、伝説や歴史的事象などから抽象して新たに物語を生み出していくクリエイターならではの稀有なセンスにも改めて驚かされますよ。
ASAGI : ありがとうございます。このコロナ禍で、さらに制作に没頭する、より追究する時間が増えたことが奏功して、今回のフル・アルバムの構想につながってきた面もあるかもしれませんね。
――では、今回の出発点とも言える「Draco animus」は、どのように出来上がったんですか?
ASAGI : これはもともとTsuneが持ってきてくれた曲で、Tsuneのバースデー・ライヴで披露しようということだったんですけど、それもコロナで中止になって、音源としてちゃんとレコーディングしようというところから始まったんですね。
Tsunehito : ヴァンパイア・ストーリーの中で、自分が担っているカーバンクルは女性のヴァンパイアなんですけど、どんどん成長していってお腹に子を宿して母になるんですね。その人生というものを意識しながら作ってきました。曲調としてはバラードというわけではなくて、かといってすごく激しく振り切っているものではないんですけど、イントロがあって、Aメロ、Bメロ、サビと続く中で情景や心情が変わっていく。たとえば、Aメロは特に温かい感じの印象ですね。そういった喜怒哀楽みたいなものも入れられたらなと構成を考えていって。なので、曲の最後もピタッと終わるのではなく、「この先はどうなるんだろう?」と思わせるようなまとめ方にもしてますね。
――実際に歌詞も<新たなる種に生まれ変われ>と締め括られますしね。歌詞については、ASAGIさんは具体的にTsunehitoさんと話をしながら書き進めたんですか?
ASAGI : 曲を聴いたときに、鍾乳洞とか竜窟が思い浮かんだんですね。そこで、カーバンクルがライデンシャフトを背負いながら、ズメイと出会うというシーンを描きたいなと思って。イメージが鮮明だったので、自然とヴァンパイア・ストーリーと竜の物語につながったというのはありますね。その竜族の始祖へ近づくことによって、カーバンクルが竜の血を引いていたという事実が明らかになっていくというか、古の記憶が呼び起こされるんです。実はカーバンクルの父親は竜の血を引いていた。つまり、カーバンクルにも流れている。しかも、「竜哭の叙事詩」にもありますが、竜は竜の血を引く限られた乙女にしか呼び出せないんですね。この時点でズメイは人間との関係を絶ち、もう洞窟で長い年月、眠りについていて、もはや岩と同化しようとしているような状態だったんです。そこをカーバンクルが炎の矢で岩を砕いて、古の記憶を呼び起こす。そういったシーンを描いていますね。
――サビに<青白く灯る蟲は夜空のように二人を永遠へと誘う>とありますが、<青白く灯る蟲>というのは何なのでしょう?
ASAGI : 海外の洞窟で光る土ボタルっていう蟲がいるのを映像で見たことがあって、すごく幻想的でいいなと思ったんですね。その蟲たちが2人をズメイのほうに誘っていくみたいな光景がいいなと思って。その後にある<地底湖を照らす流れ星>というのは、蟲たちがりゅう座流星群のように見えるというような描写ですね。
――そう考えるとより幻想的ですね。歌い手としてはどんなところに主眼をおいて取り組みました?
ASAGI : 古の記憶が呼び覚まされるような……記憶にはないんだけど、遺伝子に刻まれた血の記憶が呼び覚まされるみたいな、何とも言えないざわついた感じにできたらいいなと思って。クワイアにしてもそうですが、その血の歴史が感じられるようなイメージで歌いましたね。
――そういった“血の記憶”を自分自身に感じることもありますか?
ASAGI : 実はあるんですよね。(ASAGIの出身地である)秋田ってすごく遠い祖先がコーカサス地方の血が流れていると言われていて。つまり、ちょうどブルガリア辺りにもつながってくる地域ですよね。その話を知る以前から薔薇とかには惹かれてましたし、ヨーグルトも好きですし(笑)、ブルガリアの薔薇の谷の物語や竜の物語を書いてみたいと思ったのも、やっぱり言葉にはできない血の記憶も何かしらあると思うんですよ。もし他の地域で育っていたとしたら、今の世界観を描いていないと思うんですよね。
――それはまたすごく興味深い話ですね。
Ruiza : 僕は曲を聴いたときに、冒頭の入りのところから、すごく神聖な感じというか、崇高な感じのイメージを受けたんですよね。そこからむちゃくちゃ激しいわけじゃないけど、ハードに感じる部分もあったり、いろんな場面があるので、ギターもメリハリがあるように入れられたらいいなと取り組みました。展開もいつもより多めだと思うんですよ。たとえば、最後のセクションだったら、自分がよく取る手法としては、シンプルにリフレインさせるんですけど、あえてそこをカッティングにしてみたり。そこは人間味を加えたいというか、機械的ではない、温かさみたいなものが入ったらいいなと思ってつけたんですけどね。
――ギター・ソロもメロディで叙情的に聴かせていきますが、最後は次の展開にバトンタッチするような音の持って行き方ですよね。
Ruiza : まさにそうだと思います。最後のフレーズはTsuneが仮で考えていたものを踏襲しているというか、バトンタッチする場面だなと思ったので……ギター・ソロ単体で言えば、最後まで詰め込みたくなる部分だと思うんですよ。でも、そこを抑えて、曲の中でどうあるべきかを考えて、音を選んでいった感じですね。
HIDE-ZOU : Tsuneの曲として考えていた部分が、ASAGIさんの「愚かしい竜の夢」のストーリーにつながった瞬間に……僕の感覚的に言うと、大きな2つのものがドーンとぶつかった爆発感と言うぐらい強烈な印象を受けたんですよ。それを鮮明に覚えてるんですね。まさかそんなつながりがあったのかと。レコーディングに関しても、プロデューサーの岡野ハジメさんと相談して、今までと違う新たな技法で取り組んだんですよ。それがすごくよかったんですよね。
――それはどういうやり方だったんですか?
HIDE-ZOU : 今までは録った音をリアンプして、ミックスの段階でラインの音と合わせていろいろと調整をしていたんですけど、今回はリアンプをするのではなく、岡野さんの最新技術というか、最新機材的なプラグインを使ったんですね。そこですごく幅広い選択肢があったんですよ。実際に音のハイファイ感がすごく出たと思うんですよ。立ち上がりも速いし。クリーン・トーンもすごくガツンとくる。だから、フレーズ的にはシンプルというとおかしいですが、わかりやすいものなんですけど、その印象もガラッと変わるんですね。これは結構大きいことなんですよ。今までのやり方を否定するわけではなくて、ここで新たな我々の方法論ができたなぁという印象は強かったです。レコーディングのやり方一つで、個々のフレーズはもちろん、作品全体のクオリティにまでかかわってくる。まだ制作段階のときのフレーズ一つをとっても、完成形を感じながら臨むことができる。たとえば、今までのリアンプを前提とする手法だったら、ここはこうしたほうが後々で音が立ち上がってくるだろうと想定しながら弾くわけですよね。
Ruiza : そう。だから、作り込み方が変わったところはありますね。
――わかりやすく言うと、最終形の完成させた音で録るということですよね。
Ruiza : そうなんです。
HIDE-ZOU : だから、たとえばレンジ感とかを考えたときに、ここはパワー・コードで刻むより、一発の(全音符で)広がりを持たせたほうがいいなとか、アレンジ面でもだいぶ変わってくるものだなと。
――具体的な音がイメージできているから、その音に対してどういうフレーズ、プレイがいいのかと判断できる。
HIDE-ZOU : そう行き着けば理想的ですね。新しい手法を取るキッカケになったのがこの曲で、当初はファンクラブ限定の音源でしたけど、今回のアルバムの中の1曲として、いろんな方に聴いてもらえるのは、そういう意味でも嬉しいことですね。
HIROKI : ドラムに関しては、Tsuneはデモの段階からドラムも作り込んできてくれるので、それを自分なりに上手く消化させてもらうんですけどこの曲は温かみもすごく感じる部分があり、音のふくよかさだったり、力強さも感じられるように……パワー・バラードな印象もある中で、曲の展開部分でまた聴かせどころも変わってくるんですよね。そういったところでのプレイで言えば、音は詰め込みすぎずに、タイトさを追究するようにして。聴き手にも流れるような展開に感じられるように、曲のつなぎ目とかも上手くタッチできるようにアレンジさせてもらった感じですね。
――そのリズム・セクションとしては、ベース的にもこだわりが見えてきますね。
Tsunehito : そうですね……コロナ禍になってから、アコースティックで演奏する機会も増えたんですけど、アコースティック・アレンジのときは、ベースは下を支えるために、動くようなフレーズは抑えめにして、ほぼ全部ルート弾きぐらいの感じでやっていたんですよ。そういう経験もありつつというか、この曲でもなるべくシンプルにという意識でベース・フレーズも作っていたんですね。デモの段階でも、ほとんどシンセは完成に近いものを自分で打ち込むんですけど、この曲は曲始まりの部分にしても、本イントロにしても主旋律になるものがシンセだったりもするので、シンセのフレーズとかを活かしていくために、ベースもなるべく動かないように、Aメロもルートで普通に弾く感じに振り切ってるんですね。実際のレコーディングは今年の2月だったんですけど、さっきギターの話があったように、ベースもリアンプはしていないんですよ。アナログな感じとかも自分はめちゃくちゃ好きなので、どっちがいいということではないんですけど、今回の新しい録り方によって、全部のパートがより聞こえやすくなった気もしてるんですね。ハイファイな感じ、キラキラした部分も見えやすいというか。そういった部分も曲の聞こえ方にすごく合っているなぁと思いましたね。
――この次にできた曲が「Venom immunity」になるわけですね?
ASAGI : 「Lamb's REM sleep」と「Venom immunity」が同じぐらいですね。歌詞は「Venom immunity」が先だったかな。
Tsunehito : 毒耐性の曲があったらいいねという話はASAGIさんから聞いてて、自分もそれをテーマに曲を作っていったんですよね。さらに毒耐性ということであれば、治癒していく曲があったらいいなと思って作ったのが、「Lamb's REM sleep」で。そこで2曲を提出したんですけど、ASAGIさんに「Venom immunity」のイメージがあるということで、「Lamb's REM sleep」のほうは「Lamb's REM sleep」で採用してもらって。
ASAGI : “Venom immunity”というワードがずっと頭の中に残ってたんですね。そういった中で「これはもう、サビだな」というメロディが浮かんで。最初はTsuneの毒耐性のイメージの曲と自分の浮かんだサビをドッキングさせようかと色々トライもしていたんですが、テンポ感やキーがなかなか融合できなかったんですよね。なので、ひとまず切り離して考えて、またTsuneの曲の方は良きタイミングで手掛けようかとなったんです。そこから改めて「Venom immunity」としてサビに主軸を置いた上でのギターリフだったりを色々肉付けしていきました。ライデンシャフトの思いをグロウルで表現することは「微熱 ~雨の幻想曲~」でもやっていたので、そことは違う方向性での“洗練された強さ”というものを詰めていったんですけど、結果、グロウルが出てくることはなく、歌詞の内容にも関連してくる新種の竜という点でも、ヴォーカル的にはすごく上手くいったかなと思うんですね。曲を肉付けしていく中でも、たとえば新種として生まれ変わるときに、ライデンシャフトが脱皮していく映像が思い浮かんでいたんですね。脱皮する際の脱げていく感じを音だったりリフだったりで表現するうえでは、最後までずっとギター陣とこだわってたんですけど、同じフレーズでも弾き方だったり、ここは単音でいくとか、コードでいくとかあるじゃないですか。最終的に正解にたどり着くことができたなと思うんですけど……何とも言い難いんですけど、リフの折り返しなどのヌルッとした感じが、脱皮をイメージしたところだったりするんですね。もちろん、常々、フレーズは映像やシーンを思い浮かべながら作っていくんですけど、この部分をすごくじっくりと考えられたのはよかったですね。いつもギター陣とはデータのやり取りが多いんですけど、今回は「Zmei ~不滅竜~」もそうですけど、3人で顔を合わせて細かく打ち合わせもしたんですね。それによって、よりイメージどおりに仕上がったのもよかったなと思いますね。
――毒という意味では、“Poison”ではなく、“Venom”という言葉を選んでいるのも物語に沿ったものですね。
ASAGI : そうですね。Zmeiの血によって、毒耐性を身につけ復活した新種のライデンシャフトを描きたいなと思ったときに……毒は大きな括りで言えば“Poison”になりますけど、昆虫とか蛇とか、噛んだり刺したりする生物の毒を使った矢のほうが、より竜の世界観的に合ってるなと思ったんですね。実際にその毒性の発達した生物が注入する毒も“Venom”と言いますし、たとえば、映像としても、蛇などの毒を矢に塗っているシーンって怖いじゃないですか。そんなことを思い描きながら、やはりここは“Venom”だなと。
――サウンド面で言えば、ヘヴィさもその“Venom”感を体現していると言えそうですね。
HIROKI : 自分はパワー・ドラマーなので、普通にプレイしてても他の人たちよりやや音がでかいと思うんですよね(笑)。とはいえ、やっぱりちょっと意識するだけでも、音の太さや重みが変わってくるんですね。ただ、ドラムのアレンジという面で言えば、原曲の段階では、フレーズのテーマに決め部分があったり、サビまでに向けた展開もまさに登り詰めていく印象もあったので、より高揚感も出せるようなアレンジを心がけて……後半の2サビなども特にそうですね。音的には2バス・フレーズも詰め込んでいる部分も含めて、ドラマー的においしいフレーズもたくさんありつつ。静と動が上手く共存できている意味でも、聴かせどころはふんだんにありますし、聴き手にも高揚感が与えられるんじゃないかなと思います。
HIDE-ZOU : さっきASAGIさんも言っていたように、とにかくディスカッションを重ねたので、たとえば、リフに関してはすごく特殊な印象があると思うんですけど、印象的なフレーズって、パッと聴いただけで覚えるじゃないですか。まさにそんな感じに仕上がってますし、かといって単調じゃないんですよね。やっている側としては、ホントに細部にまで渡って、1音ごとにピッキングを含めたニュアンスにもすごくこだわって。その意味でも、すごく構築感は感じましたね。曲の疾走感はすごくあるし、ギターをやっている人は、弾いてみると楽しいと思うんですよ。でも、聴こえている以上に、難易度的には高いんです。だから、ギタリスト的には、その難易度をクリアしたときに達成感が得られる曲でもありますね。それとフレーズを作っているときに、すごくRuiちゃんとのステレオ感が意識できたかなと思いますね。足し算、引き算というんですかね。お互いに譲り合うという気持ちでだけはなく、一緒に手をつないでがっちりといく……この1曲の中でわりと多様性に富んだツイン・ギターらしい感じになってると思いますね。Dの楽曲として王道的部分もありつつ、すごく新鮮な感じもプラスされてるんですよ。
Ruiza : 僕はカッコいいなぁというのがまず最初に印象だったんですね。“Venom”感もすぐに伝わってきて、さらにデジロック感がすごく見事で、その融合している具合がむちゃくちゃよかったんですよ。だからこそ、リフも細かく詰めていって、凄い絡み合いになって。リフ自体も難しいけど、キメもかなり難しいんですよ。何と言うか……ポジション移動が激しいので、ちょっとでも気を抜くとピッキングが抜けちゃったりするんですよね。そういうのもあったので、めちゃくちゃ練習したし、弾きましたね。ギター・ソロについては、毒の危険な感じとか、スリリングな感じは表現したいなと思ってたんですね。だから、フレーズも自分の中のめくるめくというか、重なっていくというか、フレーズが次々と上に乗っかってくるような展開を考えてきました。
――タッピングのフレーズが面白いですよね。あれはどんなイメージだったんですか?
Ruiza : 二重螺旋とか細胞の感じとか、DNA的なものをすごくイメージしながらですね。
――Ruizaさんから挙がったデジロックという言葉について、曲名からするとプリミティヴにバンド・サウンドで攻めてくる想像をしたんですが、その辺はどういう狙いだったんですか?
ASAGI : ヴァンパイア・ストーリー自体は未来を描いているものなので、リンクする上で竜の世界観にもその未来感を上手く融合したいなと考えたときに、全体像がデジロックっぽい感じにできたらいいなと思ったんですね。何か僕の中ではより未来の技術で、新種の竜の血が分析されたりするような映像も思い浮かんでいたので、デジロックの要素は欠かせなかったなと。
Tsunehito : やっぱり、『愚かしい竜の夢』のシリーズということで、民族音楽っぽい感じではなく、デジタリックな要素が入っているというのは新鮮というか、驚きはありつつでしたね。リフとかもヘヴィで……チューニングもより下がっているので、ローの立ち上がりみたいなものをすごく意識して弾かないと、ギターとのユニゾンも多いですし、威力がなくなってしまう。なので、弾き方はやっぱり気をつけつつ、勢いも出るように。それでいてドラムのリズムと張り付いていくような、一緒になって進んでいく感じのベースを意識しながら弾いていきましたね。あとは、たとえばAメロとかのベースは、もともとのASAGIさんのデモにも、イントロ・フレーズと同じ感じだけど、オクターブが上のフレーズが打ち込まれていたんですね。なので、レンジの変わり方というか、高低差みたいなものが抑揚にもつながっていて。ただ、オクターブが上のものから下がってとなると、やっぱり弾き方もそれはそれで気をつけないと、ローの出方と立ち上がりが全然違う感じになっちゃうんですよね。あと、フレーズはすごくシンプルに、というのはこの曲でも意識しました。
――ロー・チューニングに関してふと思い出したんですが、「愚かしい竜の夢」を制作したときには、ギターも7弦ではなく、8弦も試しに弾いてみたという話をしてましたよね。
Ruiza : どのようなものなのか試してみたくて弾いてきましたね。今回も7弦でやりました。あのときは1音半下がっていましたけど、当時はフロイドローズ仕様のギターを使っていて、パッとチューニングを変えることができなかったので、ライヴ用にはギター自体はもう1本準備してたんですね。でも、実は最近、新たにギターを作ったんですよ。
――そうだったんですか!?
Ruiza : そう。7弦ギターなんですけど、フロイドローズではないので、すぐに調整が効くんですね。ローの部分もすごくタイトに出せる感じで、今までカットされていたような部分も出てきて。「Draco animus」のレコーディングのときは、まだ前のギターだったんですけど、今回のアルバムに向けた3曲では新しいギターを使ってます。「花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~」もそうですね。
――インタビュー日時点では、まだミックスが完了していませんが、「花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~」は新たにレコーディングをしたそうですね。
ASAGI : そうですね。権利的な部分もあったんですが、新たにアルバムを作るのであれば、新たなサウンドでの今のDの「花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~」を入れたいなと思ったんですね。
HIDE-ZOU : もう10年ぐらい前の曲になるんですよね。
ASAGI : そんなに経つんだね。今回はハーモニーを増やしたり、僕の生のタンバリンを入れたり、よりゴージャスにしたんですよ。
――それも仕上がりが楽しみですね。「Lamb's REM sleep」は先ほどの話にもあったように、Tsunehitoさんの作曲ということですね。
Tsunehito : そうですね。民族っぽい部分を意識してたら、3拍子が合うなぁというか、思いついたのが3拍子だったというか。曲そのものはマイナー調で進んでるんですよね。でも、「Draco animus」と同じようにしようと思っていたわけではないですけど、治癒していくという流れを考えたときに、Bメロの最後やサビの折り返しの部分だけがメジャー・コードになっている。怪我や病気が治ったり、快方に向かっていくイメージだったんですよね。景色的には光が見えていく感じから広げていって。最終的には歌詞の中にも光という言葉が出てきたりして、ストーリー的にも合ってたんだなぁと思ったりもしつつ。シンセの音使いで曲のイメージを作っていってたので、より物語感が出せたなぁと思いました。
――曲の並びとしては、その後に「隷獣 ~開闢の炎~」が置かれていますが、すごくいいつながりで聴けますね。歌詞はどのようなコンセプトになるのでしょう?
ASAGI : 光が差し込む感じと、赤子が生まれてくるときに感じる光と重ねた…というのもそうですが、Tsuneがイメージして作った部分はしっかり受け取っていたんですね。3拍子のリズムからは、ゆりかごが揺れている感じを想像しましたし、ここではカーバンクルから子が生まれてくるイメージの楽曲にしようと思って、歌詞を書いていったんですね。ラララララと歌っているところのメロディは、もともとの作曲デモの段階でも入っていたんですが、そこがゆりかごが揺れているシーンでしたね。
――ただ、この歌詞で世界がすごく広がってくるんですよね。たとえば、<北の魔女が差し出すリントヴルムの忌み花>とありますが、北の魔女とは何なのかというのもありますし、リントヴルムという、ズメイとはまた違った竜の存在も出てくる。構図としてはどういう関係性になるんですか?
ASAGI : 曲から受けたイメージ的に、より物語性のある歌詞のほうが、すごくハマりがよさそうだなと思ったんですね。自分の思い描くズメイの物語とは違う物語を取り入れて、あえて違うものとして表現するというか……妙な言い方かもしれないですけど、自分の思い描くものとは違う物語を取り入れることで、あえて否定的に表現する、そういうふうにしてみようかなと思ったんですね。
――周辺的なエピソードを付加したということではないんですね。
ASAGI : そうですね。北の魔女が差し出すリントヴルムの忌み花ですけど、これはドイツなどに伝わるドラゴンの話なんです。子供を授かるために魔女と契約しなきゃいけないみたいな物語なんですが、赤い薔薇を食べると男の子が生まれ、白い薔薇を食べると女の子が生まれるみたいな話なんですね。でも、そういう物語って、いい結果に行き着かないことがほとんどですよね。結局、王妃は、なぜか魔女から差し出された両方の薔薇を食べてしまい、そこでドラゴンが生まれる……その物語自体を説明するには長くなっちゃうんですけど、呪い的な部分で“生まれてしまう”というのは何となく違うなぁと思って、それを否定しながら、美しく生まれてくるというように描ければいいなと思って。
――なるほど。それが<穢れのない羊>であるべきだ、あって欲しいと。たとえば、ここにある<死海>はイスラエルとヨルダンに接する死海のようですが、これらの描写もその物語に即したものということですね。
ASAGI : 物語的には、人間の姿に変えるために、いろいろ集めなければいけないんですね。束ねた木の枝、ミルクと塩水が入った2つの桶、大きな亜麻布、7つの衣服が必要であるみたいな。最終的には、呪われて生まれてくるみたいな感じの物語でしたね。
――今の話の流れでいくと、最後の1行<Flame lamb will roast Laplace’s Demon>がすごく象徴的に映りますね。
ASAGI : そうなんですよね。結局、ここで取り入れている物語とか、“Laplace’s Demon(ラプラスの悪魔)”のような因果的決定論みたいなものを否定するというか。この解釈もすごく難しいんですけどね。因果的決定論って、やや因果論に似ているものじゃないですか。たとえば、水の入ったコップを落として割ってしまって、水が飲めないというのは、原因と結果があることで、それは存在するものじゃないですか。でも、コップを落としたことはカルマに由来するもので、飲めないというのはその報いだみたいな、人間が絶対に変えられないものであるみたいなことって僕は信じてないんですよ。そういうものを……何と言うんでしょうね。ラプラスの悪魔というものを炎で焼き尽くすという、この最後の1行で否定できたらいいなというか。
――そういう謂れのあるものは日本にもたくさんありますが、この歌詞の中でも<陋習>という言葉が出てきますよね。
ASAGI : そうですね。だから、あくまでも生まれてくる子は美しく、自分の意思でしっかり生きていく。未来を切り開いていく。そういう表現ができたらいいなと思って。
――ギター陣はどのように制作に取り組みました?
HIDE-ZOU : 僕はまた一際違ったミドル・テンポの曲だなと思ったんですね。とにかく歩んでいくような感じ、さっきTsuneが言っていた快方に向かっていく感じは、ギターのフレーズにも反映されていたんだなと改めて思うところもあったんですけど、基本的にはTsuneが原曲段階で作ってたフレーズを、あまり壊すことなく弾いた感じではあったんですね。ただ、ギター・ソロはちょっとオリエンタル要素を出せたらなという気持ちもあって。それがどこの国だとかそういうものではなくて、この1音をこっちに持っていったら雰囲気が変わるなぁとか、そういうことを考えながら作りましたね。弾いていること自体はすごくストレートで、流れるようなフレーズですけど、あえてハモらせたりもせずに、1本で完結できる感じがいいなと。さらにミックス段階で味付けしていただいたことで理想以上の音になって、今回のこのギター・ソロも、すごく気に入ってますね。
――メロディで聴かせますよね。
HIDE-ZOU : メロディもそう意識しましたし、音がよかった。自分でもそこをリピートしていたくなるぐらい、いい音だなぁって素直に思うんですよ。
Ruiza : ギター・ソロとてもよかったです。
HIDE-ZOU : ありがとうございます(笑)。
Ruiza : 入りからめっちゃ好きですよ。曲としては、悲しげであったり、明るいところもあったり、いろんな表情があるなと思ったので、場面ごとにどういうものを選択していけばいいか、すごく考えながらフレーズを考えました。イントロだったら、ユニゾンであったりとか、Aメロだったら、音は少ないですけど、その分、テンション的なフレーズになればいいなと思って、ホント優しさを感じられるようなフレーズをつけられないかなと考えてみたり。なので、アルペジオといえばアルペジオなんですけど、トライアド的な、すごい引き算をして作りました。曲自体は3拍子なんですけど、コードはすごく変わっていくので、そこでせわしない感じにしたくないなという意識もありましたね。またがるフレーズというか、2つのコードを、1・2・3、2・2・3の中で一つのフレーズになるようなものがあったら面白いかなと、そういう取り組みをしてみたり。それからASAGIくんの話を聞いてて、こんな深かったんだなと改めて感じるところもあるんですよね。曲を最初に聴いたとき、歌詞にあるようにモノクロームというか、ちょっと色味のないイメージだったんで、何か温かみを加えたいなという思いはずっとあったんですよ。こうやって仕上がってみると、それも上手く表現できたんじゃないかなと思いますね。
――ドラムはこの3拍子の表現が肝になってきますね。
HIROKI : そうですね。3拍子らしいフレーズといったところで自分もアレンジを重要視してたので、曲の展開的に流れる感じも意識しつつ、タイトさをもっと追究したいなと、そういった部分を上手く消化させてもらったところではありますね。
Tsunehito : Bメロで、ドラムだけが4分の4に(拍子)に聞こえるアレンジになっているんですよね。ここは岡野さんのアイディアもありつつだったんですけど、3拍子でずっと進んでいくリズムはちょっと変化が欲しいねと岡野さんとHIROKIさんで話し合って。そういった、ちょっとひとひねりもありつつの展開もいいなと思います。
――Dの曲には、そういう仕掛けがあるケースも多いですよね。もちろん、それを前面に押し出す場合もありますが、大抵はさりげなく組み込まれている。
HIROKI : 考えてみて(拍を数えてみて)気づくというところは他の曲でもたくさんありますね。
ASAGI : 今回のアルバムは特に変拍子が多いかもしれないですね。
――そうですよね。『愚かしい竜の夢』のときにも、ブルガリアの土着のリズムに7拍子などの変拍子が多いなんて話もありましたし。
ASAGI : そう、奇数が多いんですよね。結果的に今回はそうなってますね。
HIDE-ZOU : 3も5も7もあるという。
――初めてこのアルバムでDの音楽を聴くという人は、そういうところで、いい意味で違和感を覚えるかもしれない(笑)。
ASAGI : そうですね(笑)。聴けば聴くほど味が出てくると思うんですよね。
――ええ。たとえば、自身も音楽に取り組んでいる人だったら、こういうアプローチがあるのかと驚きも面白さも感じると思いますよ。
ASAGI : 確かに(笑)。
Ruiza : 熟練されてるなぁって思ってもらえたら。こういう複雑なアレンジも自然な感じで、取ってつけた感がないというか。そこはDらしいなと感じますね。
――そうですね。そしてもう一つの新曲が、アルバムの最後に収められたタイトル・トラック「Zmei」。ブルガリア語で始まるところからして、本作を象徴していますが、おそらく曲作りはこのタイトルありきですよね?
ASAGI : そうですね。このタイミングで描くのがベストだろうなと思って、物語の起源というか、ここから物語が始まっていますというのをアルバムの最後に持ってきたら、すごく締まるなぁと思って、タイトル曲として形にしましたね。
――この曲をアルバムの最後に置いたアイディアが見事ですよね。歌詞にある<トラキア>は説明が必要かなと思うんですが、今で言うブルガリアの辺りの地域の紀元前の名称ですね。
ASAGI : 今はブルガリアとギリシャとトルコの3カ国に分断されていますけど、場所で言うとバルカン半島南東部ですかね。
――ズメイの物語の舞台がそこに始まったことを、具体的に表す言葉でもありますね。
ASAGI : そうですね。いかにしてその物語が始まったのか。詳しくは限定盤に掲載されるアルバム全曲セルフライナーノーツにも書いているのですが、「Zmei ~不滅竜~」ではトラキアでの部族同士の争いの中で、負けてしまった部族の長は殺され、その娘は守護竜であるズメイに生贄として差し出されてしまう。しかし、ズメイは人の命を供物としては望んでいなかった…。それが竜王と乙女の出逢いとなりますね。先ほどもお話したように、『愚かしい竜の夢』というミニ・アルバムも作品として完成されているんですが、その物語を知ってもらったうえで、改めて物事の起源、過去に戻ることによって、より深みが出てくるだろうなと思ったんですね。
――ブルガリア語が多用されているのも特徴的ですね。
ASAGI : そうですね(笑)。結構、歌っているとクセになるんですよ。良い感じの民族感が出るというか……。最初は発音やアクセントなど、歌い回しがすごく難しいんですけど、ちゃんと体に入ってから歌うと気持ちよくなってくるんですね。ただ、発音も大切ではあるんですが、男性ヴォーカルとはいえ、ブルガリアン・ヴォイス的なものを感じさせるような歌い方だったりにしたいなとも思っていたんですね。その意味では、わりとファルセットをメインにして、地声にしても高めのものを入れるようにして。さらに言えば、ブルガリア語で歌うメロディの跡切れ跡切れで、今まで使ったことのないニュアンスを残すことができたんですね。ここは独特の表現ができたなと思って、わりと気に入っている部分なんですよ。
――そこはスラブ語圏ならではの発音も関係してくるところかもしれませんね。演奏陣としても、「Zmei」は必然的に特に力の入った曲だったでしょうね。
HIROKI : サビがツーバスだったり、曲の勢いがすごく感じられますよね。タムとキックを織り交ぜたフレーズを多々入れているので、そういったところでもより勢いを感じさせることができたかなと思いますし、長いフィルはドラマーとしての聴かせどころですね。ツーバスに関しても、8分と16分が共存するフレーズがあって、そこでも8分から16分にいきなり変わることによって、また勢いもプラスされるアレンジもできて……これはやってみると意外と難しいんですけどね(笑)。
Tsunehito : 曲始まりから一気に入り込める感じがありますけど、やっぱり、スピード感のある部分とハーフにリズムが落ちて、ヘヴィにどっしりいく部分ですよね。この曲も「Venom immunity」と同じチューニングですごく低いんですけど、ユニゾン部分も多いですし、リフもどんどん変化していくんですよね。なので、気持ちは熱くいくんですけど、手元はローをしっかり残すように弾くことは意識してて。ただ、今回の新しいレコーディングの手法では、音作りしやすい面もあるんですけど、強く弾くことでアタックは強調されるけど、プラグインの中ではローが再生されない部分があることがわかったんですよね。そこは調整をしていったんですが、曲の中でドラムと共にベースでロー感をばっちり支えていくという部分で、改めて勉強にもなりましたし、だからこそ、スピード感のある部分では、タイトかつシャープにいけたところはありますね。
Ruiza : 僕は曲の存在感が格別だなぁというのが、最初の印象だったんですね。相応しい曲というか、完成したものもまさにそのとおりというか、凄い曲になったなぁと思いますね。さっきも話したフレーズ打ち合わせを直接やった成果も見事に出ていて。そういった経過があったうえでの一体感を、僕は録っていても感じたし。もう……「Zmei」って感じです(笑)。
――ははは(笑)。でも、確かに「Zmei」という感じはわかります。これは聴いてもらえば伝わるとは思うんですが。
Ruiza : そうですね(笑)。「Venom immunity」もヘヴィな曲ですけど、「Zmei」は和音と単音の絡みも多めで、その違いが楽しめますし、リフもズメイだなって感じで……いや、ふざけてるとかじゃなくて(笑)。
――それも頷かされる存在感がこの曲にはありますね。
HIDE-ZOU : 確かにリフの力強さは巨大な存在の感じがすごくありますね。そのリフを弾くうえでは、和音のエッジ感が重要だというのがASAGIさんのこだわりだったんですよ。そのほうがよりズメイ感が出るんじゃないかと。でも、確かにそうなんですよね。アップ・ピッキングでのエッジ感。そこを立たせることで、ソリッドというか、勢いを殺さずに突き進んでいけて、なおかつ、間もあるんですよね。このリフとリフとの間が重要で、空気感が独特な感じがしますよね。
――よくよく考えてみたら、実体を見ることができない伝説の竜を表すリフといっても、捉え方は様々あるはずですよね。そこを擦り合わせて共通認識として特定の音に決め込む作業は、とても難しいと思うんですよ。
HIDE-ZOU : そうですね。だからこそ、ディスカッションを繰り返した完成形として、この形になった意味があると思いますし、改めてそうった演出感、音から画を想像してもらえると思うんですね。みんな共通するズメイが浮かんでくる。それがDという僕らのバンドの強みだなというのは、この曲が完成して、改めて感じたことでもありますね。
――今回、『Zmei』という新たなアルバムに構成するに当たって、『愚かしい竜の夢』に収録されていた6曲以外に新曲なども加わったことで、曲順は大幅に変わっていますよね。「Zmei」を聴けば、この曲はエンディングの位置でしかあり得ないと自ずから思いますが、やはりいろんな選択肢はあったと思うんです。
ASAGI : そうですね。結構、ギリギリまで悩んでたんですよ。初期段階では、『愚かしい竜の夢』に入っていた6曲の後に新曲を並べるという案もなくはなかったんです。でも、新曲が加わったうえで完成するフル・アルバムとしての形を考えたとき、やっぱり曲順も踏まえてのものであるべきだなと思ったんですね。“Zmei”というタイトルもそうですし、タイトル曲が最後に来るというのもそうなんですけど、「竜哭の叙事詩」の歌い出しは<ズメイよ>で始まりますよね。そういった意味でも、竜を呼ぶ歌という意味合いもあるので、これを1曲目にすることで、ズメイというワードからアルバムが始まり、ここから竜を呼び寄せて物語に誘い込んでいく。そう組み立てていく中で、後は必然的に決まっていきましたね。さっき「Lamb’s REM sleep」から「隷獣 ~開闢の炎~」への流れがすごくいいねとおっしゃっていただきましたが、「隷獣 ~開闢の炎~」は、<竜の庇護のもと子らは育ち>という歌い出しのように、まさに子供が育っていく感じが「Lamb's REM sleep」からつながっていく。たとえば、「Draco animus」から時系列的に「Venom immunity」に入っていくのもそうですが、上手く組むことで、より深く感じることができる、映像が浮かびやすくなる。そういう曲の流れにはできたなと思っていて。フル・アルバムとして曲順を並べ替えたのは大正解だったなと今は思ってますね。
――ええ。この曲順ゆえに新たなフル・アルバムとしての意味があると思います。
ASAGI : そうですね。これでホントにフル・アルバムとして完成された感覚はありますね。もちろん、それぞれの曲を単体で聴いてもらうのもいいんですが、ズメイの物語を描く楽曲をフル・アルバムとしてちゃんと聴いてもらえるのはすごくいいなと思います。さらに言うと、「Zmei」を先行シングルとして配信するんですが、これは新曲としてのタイトル曲を聴いてもらいたいということだけではなく、物語の起源となる曲ですので、これから何が始まるのかを知ってもらう意味で、いい形だなと思っているんですね。この物語に初めて触れる人も、ここを入り口として自然と感じることもできる。じっくり考えられる時間があったからこそ、様々な面で自分たちが納得のいく流れと組み立て方ができているなと感じますね。
――新曲も含めた『Zmei』を表現するライヴを観たくなりますよ。何らかの形で行われる可能性もあるとは思うのですが、現状で言える、この先の展望もありますか?
ASAGI : いずれ有観客でも『Zmei』というフル・アルバムの全曲でのライヴができたらいいなと思いますが、現時点ではまだ有観客ライヴは予定していないんですね。ワクチンの接種状況やその効果、特効薬が開発されるのかどうか……そういったところではあるんですが、ファン心理としては、バンドがライヴをやるなら当然どうにかして観たいと思ってくれるわけじゃないですか。でも、家から会場への移動だったり、ライヴ自体の環境であったり、その後だったり、どうしても不安な気持ちも付きまとうと思うんです。複雑な心理ですよね。僕らとしては、ライヴを観てもらうのであるなら、なるべく不安な気持ちのない状態で心底楽しんでもらいたいんです。だからこそ、100%元通りではないにしても、納得できるタイミングが訪れたときに、有観客のライヴを再開したいんですね。不安なまま……楽しめるのかなって。いろんな複雑な状況が絡んできますよね。
――あのバンドはやっているのになぜDはやらないのかという話にもなりますよね。ただ、どちらも正しい選択なんですよね。
ASAGI : そうなんですよね。アーティストとしてステージに立つときの心の問題であって、そのアーティストが自身の状況に応じて、納得してステージに立っていればそれが正解だと思いますから。他がどうとかではなくて、あくまでも僕たちがDとして考える、メンバー/ファンの健康、安全を第一に考えての活動なんですね。だから、もう少しオンライン上での活動が続くことにはなると思います。来年の状況はわからないですけど、有観客ライヴは本当にやりたいです。生で自分たちの音楽に触れてもらいたい。でも決行してチケットを売ったところで、結果、キャンセルになることもあるでしょうし、メンバーの誰かが感染してライヴができないということもあり得る。なるべくそういう状態でファンを困惑させない状況を念頭に置いて、スケジュールが組めたらいいなと思います。アルバムはライヴでも盛り上がること間違いなしの楽曲達なので、いつかそのライヴができる日まで、この『Zmei』をじっくり聴きながら心の灯火を燃やし続けていて欲しいですね!直接逢える日を楽しみにしています。
TEXT : Kyosuke Tsuchiya/PHOTO : Takaaki Henmi 


2021.11.23 Release
Zmei (ズメイ)
豪華数量限定盤(CD+DVD)
 ※オフィシャル通販のみ
 ※完全数量限定。無くなり次第販売終了

GOD CHILD RECORDS/GCR-213/¥11,000(税込)/CD 1DISC&DVD 1DISC/ハードカバージャケット/写真集付き豪華仕様(44P)/全曲セルフライナーノーツ付き/A4サイズ

[Disc-1(CD)]
1.竜哭(りゅうこく)の叙事詩(エピック)
2.愚かしい竜の夢
3.花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~ (再録)
4.Draco animus (2021.3.FC限定Release)
5.Venom immunity (新曲)
6.Lamb’s REM sleep (新曲)
7.隷獣 ~開闢の炎~
8.遥かな涯へ
9.Draconids
10.Cannibal morph
11.Zmei ~不滅竜~ (新曲)

[Disc-2(DVD)]
1.Zmei ~不滅竜~ (新曲)
2.Venom immunity (新曲)
3.Lamb’s REM sleep (新曲)
4.愚かしい竜の夢 (2017.10.27 Release)


通常盤(CD)
 ※オフィシャル通販&SHOP流通

GOD CHILD RECORDS/GCR-214/¥3,300(税込)/CD 1DISC/ブックレット(20P)

[Disc-1(CD)]
1.竜哭(りゅうこく)の叙事詩(エピック)
2.愚かしい竜の夢
3.花摘みの乙女 ~Rozova Dolina~ (再録)
4.Draco animus (2021.3.FC限定Release)
5.Venom immunity (新曲)
6.Lamb’s REM sleep (新曲)
7.隷獣 ~開闢の炎~
8.遥かな涯へ
9.Draconids
10.Cannibal morph
11.Zmei ~不滅竜~ (新曲)
※通販はこちら >>Rosen Kranz





>>back to "Interview" top