|
|
2018.01.18 |
|
|
結成20周年のアニヴァーサリー・イヤーを迎えたDIR EN GREY。近年はメンバー個々も多彩な形態でソロ活動を行っているのは周知の通りだが、そんな中、ASAGI(D/vo)のソロEP『Seventh
Sense/屍の王者/アンプサイ』(2016年)とそれに伴うライヴ、さらには2018年1月31日にリリースされるASAGIメジャー1st アルバム「斑」への参加等、セッション・プレイヤーとして様々なアーティストのサポートを務めていたShinya(ds)が、新たにSERAPHなるプロジェクトを始動させたことが明らかになった。
SERAPHとはいかなる存在なのか。8月18日にファースト・シングル『Genesi』がリリースされた(7月5日から先行配信済)今、Shinyaにその構想や将来に向けた展望などを訊いた。 |
|
|
|
|
――突然、今年の3月にSERAPHの始動が発表になりましたよね。Shinyaくんもいろんなアーティストのレコーディングやライヴに参加していましたが、まさかソロ・プロジェクトまで準備していたとは驚きでしたよ。
Shinya:構想自体は3年ぐらい前からあって、2年以上前にはできてました、すべてが(笑)。だから、出すタイミングを窺ってただけなんですよ。
――そうだったんですか!?では、ご本人としては、早く言いたくてしょうがなかったわけですね。
Shinya:そうです、そうです。もう曲も完璧に仕上がってましたからね。
――では、そもそも3年ぐらい前にSERAPHを立ち上げようと思った理由は何だったんですか?
Shinya:前々からやりたいことはいっぱいあったんですけど、ちょうどDIR EN GREYとしても、メンバーそれぞれが他のことをやってもいいよみたいな雰囲気になったので、他のサポートとかの仕事も受けつつ、これはこれで進めてたんです。
――「やりたいことはいっぱいあった」とのことですが、このタイミングでSERAPHを選択した理由は?
Shinya:たまたまメンバーが見つかり、一番早く動けたからですけど。
――他にはどんなものをやりたいと思っていたんですか?
Shinya:まぁ、名を出さずにすでにやっているものが一つあるのと(笑)、あとはバンドも別にやろうかなって思ってたんですよ。
――ということは、SERAPHのコンセプトもその時点ではっきりしていたと言えますよね。
Shinya:はい。まず、ピアノとドラムと歌というのがやりたかったんです。20年ぐらい前に観た、MALICE MIZERのライヴ・ビデオに影響を受けて……それはドラムとピアノだけの演奏だったんですけど、こういう感じで、歌、メロディがちゃんとあるものをやりたいなと、その頃から思ってたんです。
――ドラムとピアノによるインストゥルメンタルではなく、そこに歌、メロディをのせたいと考えたのはなぜだったんですか?
Shinya:ちっちゃい頃からメロディを作るのが好きだったというのもあるんですけど、多分、DIR EN GREYでメロディを作ることは、もう100%ないんですね、メロディは京くんがつけると決まっているので。だから、自分の作ったメロディも世に出していきたいなという思いがあって。
――「ちっちゃい頃から」というのは、幼少の頃からということですか?
Shinya:それはちょっと言い過ぎましたけど(笑)。でも、音楽に興味を持つようになり、バンドを始めた10代の頃からですね。
――楽器としては最初からドラムだったと思いますが、その頃から、いわゆる作曲という作業にも力を注いでいたんですね。後に作品となって発表された当時の曲もあるんですか?
Shinya:いや、それが作品として発表されたことはないですけど(笑)。まぁ、DIRの初期は、まだ作曲者がメロディを作ってたんで、(自分が作ったメロディが配されているのは)その頃の曲ぐらいですね。
――なるほど。ただ、ドラム、ピアノ、歌というSERAPHを構成する3つの要素が揃ったにしても、いろんな表現の可能性がありますよね。
Shinya: SERAPHという名前も、やっぱ20年ぐらい前から、何かに使おうと思っていた言葉なんですね。天使の階級の最高位を意味するものなんですけど、それに合った音楽をやろうと思って。その時点でストックはめっちゃあったんですけど、このSERAPHを象徴するような曲はどんなものだろうというのは結構考えて。そこで3年前に作り始めたのが「Genesi」なんです。
――つまり、「Genesi」は、SERAPHというユニットで活動するんだという確固たる思いの下に生まれた曲なんですね。SERAPHという言葉から受ける印象は人によって様々だと思うんですが、オフィシャル・サイトで公開されたトレイラー映像の雰囲気が、何となくSERAPHの世界なのだろうと、みな感じたと思うんです。
Shinya:そうです、あれです。だから……美しく、強く、みたいな。
――あの映像の中には天使の姿をしたShinyaくんも登場しますよね。
Shinya:そうですね。二階健という監督の方がいらして、昔から好きだったんです、その人の手掛けたPVとか映像作品とかが。そこで二階さんにお願いしたら、すごくSERAPHに合うものができるだろうなぁと思って話をしてみたら、思い描いていたイメージの映像を撮ってくれたんです。
――具体的にはどんな話をしたんですか?
Shinya:その当時、6曲ぐらいデモがあったんで、とりあえず、それを二階さんに送ったんですね。たまたまそのちょっと前に別件で知り合ってたんですけど、「二階さんの作品にすごく合うような曲ですよ」みたいなことを言ったら、「あ、ホントだ」みたいになって。ただ、それとはまた別に、当初は普通に自分でリリック・ビデオを作ろうとしてたんですよ。そんな話も二階さんとしてたら、「僕、作りますよ」と言ってくれたので、歌詞とかも送ったんですね。そしたら、「アイルランドの情景が見えました。撮ってきます」って話になり……ホントは僕も行こうとしてたんですけど、ツアー中だったからスケジュールがなさすぎて(笑)、監督だけ行ってもらったんです。だからアイルランドです、イメージは。
――アイルランド民謡は日本人にもすごく親しまれていますが、国家の成り立ちという観点で言えば、内戦のような負の遺産も抱えている場所ですよね。そこに天使が舞い降りるといった崇高な印象も「Genesi」からは受けるんですよ。
Shinya:バンドのコンセプトが、天界から見ている人間の様子なんですよ。だから、戦争だったり、人間の愚かさだったり、何だったり、各曲にそういったいろんなテーマがあるんですね。
――Shinyaくんが二階さんにアイルランドと指定したわけではなかったけれども、思いは伝わっていたと。
Shinya:そうなんですよ。バッチリ、はまりましたね。
――話を戻しますが、ソロ・プロジェクトであれば、曲によっていろんな人を起用するという形態もあると思うんですが、SERAPHはShinyaくんとMoaさんという女性の二人組ということなんですよね。
Shinya:そうです。ホントはシンガーを入れるつもりで、ずっと探してたんですよ。Moaさんも最初はピアニストとして誘ったので。ただ、1年ぐらい探したけど、いいなと思う人がいなかったので、じゃあ、もうMoaさんに歌ってもらおうと思って。
――彼女はヴォーカルの経験があったんですか?
Shinya:まぁ、ちょっとはあったんじゃないですかね(笑)。
――なんですか、その「ちょっとは」っていうのは(笑)。
Shinya:いや(笑)、あまり世に出ているものではないということで。
――ピアニストとして声をかけた彼女は、Shinyaくんに歌うことを提案されたときには、どのような反応でした?
Shinya:最初はピアノに専念したいということで、「ちょっと……」みたいな感じだったんですけど(笑)、デモはMoaさんの仮歌で録ってたんですよ。とりあえず、これを元にシンガーを探そうという目的だったので。でも、いろんなシンガーにも同じ曲を歌ってもらったんですけど、Moaさんの声のほうが全然イメージに合ってて。だから、「そろそろ歌もいいんじゃないですか?」みたいなことになって(笑)。
――遠回りしたけれど、適任者は目の前にいたぞと。
Shinya:そうそう(笑)。
――女性ヴォーカルであることも必須だったんですか?
Shinya:それは絶対でした。単純にこういう楽曲で男が歌っていても、何か違うかなって思ってたんですよ。普段から自分が聴くのも女性ヴォーカルのものばかりなんですよ、バンド以外で好きなものは。
――たとえば、どんな女性ヴォーカルの作品を聴くんですか?
Shinya:まぁ……メジャーなところで言うと、エンヤとかビョークとか。ただ、ああいったジャンルで、ドラムがここまでいろいろ叩いている音楽はあまりなかったかなっていうことで、このSERAPHもやろうかなと思ったんですよ。
――コンポーザーとしてのShinyaを表に出すことを主眼とすれば、自分でドラムを叩かなくてもいいはずですが、そこはご自身のアイデンティティであるという意味ですよね。
Shinya:もともとドラムとピアノという画が浮かんでいたというのもありますし、今後、ライヴをやることを考えたら……まぁ、ドラムじゃなくてもよかったんですけど(笑)、とりあえずドラムができるので。だから、いつかライヴができたらいいなと思います。
――SERAPHの楽曲を観客の前で演奏している姿も、当初から思い浮かんでいたわけですね。そもそもMoaさんとはどのような出会いだったんですか?
Shinya:とある現場で仕事をしてて……それで知り合ったんですけど(笑)。
――そりゃそうでしょ(笑)。何かもうちょっとわかりやすい話はないんですか?
Shinya:まだ秘密なんですよ、Moaさんの詳細は。
――それはいつ明かされるんですか?
Shinya:まぁ……来年ぐらいじゃないですか?
――そうなんですか?その出会いのときに、かねてから思い描いていたSERAPHの構想に彼女が合うかもしれないとピンときたということですか?
Shinya:いや、知り合ったのはその前だったので、このSERAPHをやろうと思ったときに、そういえばピアニストにはMoaさんがいるなと思って、声をかけてみたんです。
――ピアニストとしてはどのような印象があったんですか?
Shinya:……それもまだ言わないです(笑)。
――それも!?謎めいてますね。ともあれ、惹かれるものがあったと。そのSERAPHの初音源となるシングル『Genesi』が8月18日に公式通販限定盤としてリリースされますが、ここに収録される「Genesi」は、先に公開された映画『霊眼探偵カルテット』の主題歌になっていましたよね。さらに「Destino」なる楽曲も挿入歌として使用されていることが明らかになりました。
Shinya:まぁ、オープニングとエンディングに流れているものですね。
――でも、これはもともと映画に向けて書いたものではなかったと思うんです。しかも、映画のクレジットを確認したら、Shinyaくんが音楽監督を務めていることも発覚したわけですよ。
Shinya:そうですね。さっき話したように、曲自体は2年ぐらい前から6曲ぐらいはあったんで、出そうと思えばいつでも出せたんですけど、なるべくバンドと関係ないところで聴いてもらえる機会を、ずっと待ってたんです。そこでたまたまその話が来たんで、これはどうですかと。
――それは楽曲提供の依頼だったのか、もしくは音楽監督に就任して欲しい旨の話だったのか……。
Shinya:いや、それはですね……まずはその6曲を持って、どこか使えるところを探してたんですよ。そしたらこの映画の制作の方が「使いたい」と言ってくれて。そのときに、どれでもいいから使ってくださいとデモを渡したんですが、とりあえず、オープニングとエンディングで2曲必要だと。そこで「Destino」と「Genesi」が選ばれたんですが、残りの曲もインストにして、全部、挿入曲としてこの映画の中で使いたいって言われたんですよ。確かに「どれでもいいから」って渡してはいましたけど、それはちょっと待ってくださいと(笑)。この6曲をすべてこれ(映画)に使われてしまうと、SERAPHとしての作品が出せなくなってしまうので(笑)。それなら、映画の中で使う他の曲は僕が改めて作るんで、今回はその2曲だけにしてくださいという話をして。そういうひょんなことから、作らないとダメな状況になったんですよ(笑)。
――そういう経緯だったんですね。映画の音楽監督は初めてのことですし、実際にやってみて、どのように感じました?
Shinya:面白かったですね。普通、曲を作るときって、映像のことなんて何も考えないじゃないですか。自分の好きな、カッコいいと思う長さで作りますし。でも、映画の場合、画面を見ながら、ここで場面が変わるから、ここまでで最初の部分は1回終わらせてみたいな作り方になる。その時点で映像はほぼ完成していて、監督と一緒にラフ編集をしたものを見ながら、「ここの部分をお願いします」と言われたところを、実際に作っていったんですね。
――最終的には何曲ぐらい作ったんですか?
Shinya:短いものを入れたら10曲ぐらいですね。
――「Destino」はオープニング・トラックだそうですが、この曲は今のところ、『霊眼探偵カルテット』を観に行かないと聴けないんですよね。後に何らかの形でリリースされるだろうとは思いますが。
Shinya:そうですね。レコーディングはしたので、いつかは(作品として)出るんじゃないですかね(笑)。
――「Genesi」に話を戻しましょう。歌詞はMoaさん手掛けていますが、もともとのコンセプトを立てているのはShinyaくんですから、作詞に当たっても、当然、双方での摺り合わせも必要になりますよね。実際にはどのように進めていったんですか?
Shinya:まぁ、コンセプトについては二人で話し合ってましたし、もともとシンガーを入れる予定だったんで、歌詞はその人に書いてもらおうと思ってたんです。僕が自分で書くこともちょっと視野には入れつつ。そんな中で、とりあえず「Genesi」の歌詞をMoaさんが書いてきたんですけど、それを見たときに、とにかく自分の理想していた以上の世界で驚いたんですよ。これは自分で書いてる場合じゃないな、もう歌詞は任せますというぐらいバッチリなものが来たんですね。
――ただ、Shinyaくんは今後一切、作詞はしないという意味ではないんでしょうけれど。
Shinya:うーん……まぁ、でも、書かないと思います(笑)。
――と現時点では思うぐらい(笑)、的確なものが上がってきたということですね。言語が英語であるのは必須条件だったんですか?
Shinya:英語は必須でした。シンガーを探しているときも、英語が喋れる人というのが最低条件だったんです。
――それはなぜ?
Shinya:それは、まぁ、やっぱ日本だけじゃなく、世界を視野に入れていきたいからですね。
――だけど、DIR EN GREYは、必ずしも英語ではありませんよね。むしろ日本語を用いながらも、全世界を廻っているバンドですから。
Shinya:それとはまた違う考え方ですね。DIR EN GREYで海外に行ってみて思ったのは、日本語でも全然いいと言ってくれる人はたくさんいるんですけど、制限が出てくるんですよ。たとえば、ラジオでも、英語の曲じゃないとかけられないとか。そんな変な制限がかかるぐらいなら、最初から英語でいこうと。
――とすると……Moaさんは日本人なんですか?
Shinya:それも大事なところなんですけど、ただ英語で歌いたいだけなら、英語圏の人を連れてくればいいんですよ。でも、コンセプトとして、日本の血が絶対に入っているということもあるんです。だから、日本人かもしれないし、日本人の血が入っている違う国の人かもしれないですよということで、それは謎です(笑)。やっぱ日本からのアーティストというのを意識したかったんです。
――そう意識した理由は?
Shinya:それは自分が日本人だから、これは日本のものですという……そういうのは漠然とあったんですね。僕が影響を受けた音楽も、99%は日本人のものですからね。日本大好きなんで(笑)。
――これだけ国際的な活動をしているShinyaくんなら、むしろ多国籍のミュージシャンによるコラボレーションから生まれる面白さを実験してみても不思議はないと思いますが、あえて原点である日本にこだわったのは興味深いですね。
Shinya:単純に外国人ミュージシャンにあまり興味がなかったということでしょうね。いろんな凄いバンドとも、フェスとかで一緒にやったりもしてきましたけど、上手いなぁとかは思うんですけど、特に音楽が好きになったりすることとかはないんですよね。
――自身の歴史的な歩みや思想的なものも関係はないんですか?
Shinya:まったくないです。
――なるほど。言い換えれば、SERAPHの音楽から、日本らしさを感じ取ってもらいたい思いがあるということですね。
Shinya:そうですね。僕は(日本の)歌謡曲が好きなんで、そういう色もメロディとかに出ていると思うんですよね。
――いわゆる和音階を持ち込むといった話ではないんですよね。
Shinya:そうです、そうです。
――“歌謡曲”といって、Shinyaくんが最も感銘を受ける人は誰でしょう?
Shinya:中森明菜さんです。(惹かれるのは)あのちょっとした暗さですよね。
――いつか一緒に何かやっていただきたいですね。Shinyaくんが書いた曲を歌ってもらうとか。
Shinya:やりたいですよね(笑)。それは夢の一つではあります。
――シングル『Genesi』のジャケットのアートワークについては?
Shinya:バンドとかのアートワークでは、自分を使うというのは、あんまりないじゃないですか。いろんな加工を試して、これが一番、SERAPHに合ってるかなと。アーティスト写真がまずあって、そこからこっちにつながってるんです。
――ただ、そのどちらにもMoaさんは出ていないですよね。
Shinya:そうですね。後々、フェードインする形にしていこうかなと(笑)。
――今後はどんな活動をしていくのでしょう?
Shinya:具体的に決まっているものはないんですよ。さっきも言ったように、意味もなく出してもアレなんで、出す機会があればいいなと思ってます。なるべく自分たちを知らない人に聴いてもらいたいなというのがあるので。だから、突然何か出していったりするかもしれないし……今でも10曲ぐらいはあるんですよ。時間があればどんどん曲も作っていこうと思っているんで……生きている間にすべて出せるかどうかわからないです(笑)。 |
|
取材・文/土屋京輔 |
|
|
|
|
|
|