2017.12.04 D TOUR 2017「愚かしい竜の夢」 TOUR FINAL @ SHIBUYA TSUTAYA O-EAST
2018.01.18

確たるスタイルを貫きながら、いかに新鮮さを提供し続けられるか。何らかの芸術を表現する者にとって、自身の普遍性を高いレヴェルに保っていくことは容易ではない。後に天才と称されるようになった偉人たちも、現実には数々の苦悩と向き合いながら、後世に残る逸品を生み出してきた。昨今のDの取り組みを眺めていると、改めてそういったアーティスティックな観点に着目したくなる。


既報の通り、ミニ・アルバム『愚かしい竜の夢』では、新たに“竜”をモチーフにした物語が描かれた。そこで驚かされたのは、彼らのコンセプトでもある<ヴァンパイア・ストーリー>と見事な連関が意図されている点である。単に風変わりなことなど誰でもできるが、型を踏襲しながら刷新していくという、難易度の高さを伴う道をDは自然体で歩んでいる。
『愚かしい竜の夢』がどのような作品なのか、楽曲そのものの詳細は本サイトのインタビューに詳しいが、実はそこでは明かされていない挑戦が彼らには待ち受けていた。それが同作を引っ提げて行われた今回のツアーだ。というのは、『愚かしい竜の夢』は2017年10月27日が正式なリリース日とはいえ、その時点で一般店頭での販売は行われていない。オフィシャル・ウェブストアやライヴ会場などでしか入手できる場を設けなかったのだ。つまり、多くのオーディエンスが新作に触れていない可能性がある状態でステージに立つ選択をしたことになる。
何らかの限定商品を持ち込むことで、各地の公演の動員力をアップさせるための施策は往々にしてある。ただ、『愚かしい竜の夢』に関して言えば、必ずしもそういう性格のものではないはずだ。なぜならば、同作が一つの短篇とも言える成り立ちの内容であり、事前にじっくりとファンに聴き込んでおいてもらったほうが、なおさらライヴでの好反応も喚起しやすいからである。ファンにとっても、あらかじめ親しんだ音源の再現が期待できる。
そう考えれば、今回のDの試みはある種の“賭け”でしかない。しかし、それはあくまでも傍から見た見解であり、バンド側にはこの『愚かしい竜の夢』の物語を、初めて実演の場で体感したとしても、着実に魅せられるという確固たる自信があったからこそ成し得たものだろう。振り返ってみると、合点がいく事柄もある。『愚かしい竜の夢』に係る取材においても、ライヴに向けたメンバーの発言は普段よりも多かった。当時から様々なイメージ・トレーニングが、彼らの中では繰り返されていたのかもしれない。


11月1日の神奈川・新横浜NEW SIDE BEACH!!公演からスタートしたツアーは、おそらく『愚かしい竜の夢』を立体化させた理想像を、高い集中力の下に形にしてきたのだろう。最終日となる東京・渋谷O-EAST公演は、そんな臨み方が伝わってくるパフォーマンスだった。
ステージには紗幕が下ろされ、3頭竜や炎が映し出される。オープニングは“竜を呼ぶ歌”である「竜哭の叙事詩」だ。そして時代は遡り、「花摘みの乙女~Rozova Dolina~」、さらには「7th Rose~Return to Zero~」を前奏とする「7th Rose」へとつながれていく。約7年半前にリリースされたアルバム『7th Rose』が、このような形で再び表舞台に浮上してくることなど、誰が予想しただろう。彼らの表現する世界観は、点描画のような全体像を持っているわけだ。
「人を信じたばかりに命を落とした竜の歌です」と始まったのは「遥かな涯へ」。ギター・オーケストレーション的イントロから激しく展開する曲調を、ライヴならではの躍動感を加えて再現していく様は大いに聴きどころとなっていた。そのハードな質感を『Genetic World』(2009年)収録の「メテオ~夢寐の刻~」につないだのも興味深い。激昂した感情を表すに相応しいセレクトだ。
ここで『愚かしい竜の夢』においては外伝的な位置づけとなる「隷獣~開闢の炎~」を披露。<ヴァンパイア・ストーリー>とのリンクが明確に記されたマテリアルでもある。民族音楽にも通じるリズムの軽快さと重厚なアンサンブルが融合したパフォーマンスは、フロントに立つ4人のダンスも相まって、音源とはまた異なる趣きだ。ここでの主人公となるダリエがカーバンクルの母親であるという設定から、続く楽曲は「赤き羊による晩餐会」。D流のロックンロールが心地よい流れを作り出す。


ドラム・ソロから楽器隊によるインストゥルメンタル・セッションを経て始まったのは、ASAGIが旗を掲げるお馴染みの「Night-ship “D”」。もちろん、Dのメンバーのみならず、同じ船に乗り込むファンを含む共同体を隠喩にしたものでもあり、ライヴでは絶大な盛り上がりとなるが、今回の並びで耳にすると、やはり人間と竜の間に築かれていた信義にも思いを馳せられる。その直後に「DEAD ROCK」が配されたのには驚かされた。2013年4月の東京・渋谷公会堂公演の際に限定販売されたシングル『Bon Voyage!』に収録された楽曲であり、航海に臨む覚悟が歌われている点では納得の流れだが、このタイミングであえてピックアップしたところが面白い。
そして「隷獣~開闢の炎~」を始め、『愚かしい竜の夢』が生まれた必然性を感じさせる「Dragon princess」へ。言わずもがな、今回のセットリストの中では、たとえばASAGIのグロウルにしても、単なる攻撃性の表現にとどまらない意味を見出せる。飛竜の思いとはいかなるものだったのか。ここで歴史を省みることによる再検証を脳内で行ったオーディエンスもいたかもしれない。叙情性に満ちた「微熱 ~雨の幻想曲(ファンタジア)~」で一つのエピソードは締め括られた。
舞台は再び『愚かしい竜の夢』の本筋へ。ASAGIはHIDE-ZOUと共作した「Draconids」をプレイすることを告げる。曲名はりゅう座流星群を意味するが、各地から竜が故郷に集まってくる様子をたとえたものだ。サイリウムを振りながら、合唱に興じる観客の姿。数多の星が流れる情景を意識したのだろう、そこから「Dearest you」につないだ点にも頷ける。幾度となく歌われてきたDのアンセムだ。この空間が、物語と相互作用の中で特に同調した時間だったかもしれない。
バンドとファンの変わらぬ絆を確かめ合った後、結成15周年を迎える2018年の計画が明かされる。詳細はオフィシャル・サイトで確認して欲しいが、エイベックスからASAGIのソロ作品『斑』やDの新作がリリースされるとの報告は特筆すべきトピックだろう。約10年を経て、メジャー・デビュー作品を発表した古巣に復帰する。こういったケースは非常に稀だ。様々な偶然が必然に思えてくる彼らの活動ならではとも言えそうだが、アニヴァーサリー・イヤーに盛り上がりを加える話題の一つである。


そんなバンドを勢いづけるMCを経て、共食いモルフに着想を得た歌詞が綴られた「Cannibal morph」へ。自然の摂理とはいえ、やりきれない思いも生じる内容だが、激しいサウンドによるアグレッションを押し出しながら、万物の儚さも感じさせる。直感的には突進力に身を委ねたくなるものの、改めて楽曲と向きあえば、この日のDが目指していたステージがよくわかるはずだ。そのまま本編最後を新作のタイトル・トラック「愚かしい竜の夢」で閉じる。中央に設置された大きな玉座にASAGIが座り、じっくりと歌を吹き込んでいく。牧歌的な旋律と荘厳なクワイア。彼が心に抱いていた思いは、決して今回の物語の核心部分に対するものだけではなかったに違いない。自分たちが守るべきものは何なのか。そんな力強い意志も感じさせる姿だった。
二度行われたアンコールでは、それぞれ「薔薇の記憶」「Guardian」「黒竜」「弾丸」「薔薇色の日々」を配した。特別な意味を持たせた選曲であるのは、言うまでもないだろう。だからこそ、この日のライヴの奥深い意味も推察したくなった。
『愚かしい竜の夢』という短篇の再現を主軸としながら、彼らが思い描いていたのは、さらに拡散された大きな世界だった。たとえば、薔薇は一つの象徴だが、コンセプターでもあるASAGIが着目しているのは、美しき花弁や鋭い刺からイメージできる表層的な部分だけではない。その両極にまつわる営みを幻想する手法で、人間の普遍性に落とし込む。すべてのマテリアルが披露された後、彼はマイクを通さず、「夢を見よう!」と観客に叫んだが、この“夢”は現実から目を逸らすものではなく、究極的には共に理想郷を築くという意味合いが言い含められている。無論、エンターテインメントとしての音楽を享受できる喜びは十分に提供されており、メンバー自身にとっても、クリエイティヴィティを発揮する場としてDが存在する。ただ、それはある種のキッカケでしかないことも事実なのだ。


先述した『愚かしい竜の夢』における挑戦は、また新たな思索を持ち込んだ。それが5人の意識下にあったものなのかどうかはわからないが、同作を引っ提げたライヴを目撃しただけで、Dが今後も続けていく探究に、より深く傾倒させられた一夜だったのは確かだ。ASAGIが先導する“我らの航路”には、あえて艱難辛苦が設定されているのではないかとも思える。事象そのものはネガティヴに映ったとしても、ポジティヴな力をそこに対峙させる勇敢さが、実はDの真骨頂なのかもしれない。“アーティスト”としていかなる熟成を遂げていくのか、崇高な志で向き合う未来がますます楽しみになった。


TEXT:土屋京輔  PHOTO:TAKUYA ORITA  


2017.12.04 D TOUR 2017「愚かしい竜の夢」 TOUR FINAL @ SHIBUYA TSUTAYA O-EAST
-SET LIST-

-オープニングSE-
01. 竜哭の叙事詩
02. 花摘みの乙女~Rozova Dolina~
03. 7thRose ~Return to Zero~ / 7th Rose
04. 遥かな涯へ
05. メテオ~夢寐の刻~
06. 隷獣~開闢の炎~
07. 赤き羊による晩餐会
-Dr.solo & リズムセッション-
08. Night-ship"D"
09. DEAD ROCK
10. Dragon princess
11. 微熱 ~雨の幻想曲~
12. Draconids
13. Dearest you
14. Cannibal morph
15. 愚かしい竜の夢

<ENCORE 1>
01. 薔薇の記憶
02. Guardian

<ENCORE 2>
01. 黒竜
02. 弾丸
03. 薔薇色の日々


D 15th Anniversary Special Premium Live 2018 東名阪ワンマン
4月12日(木) 名古屋Electric Lady Land
4月13日(金) 梅田バナナホール
4月22日(日) 品川インターシティホール

D 15th Anniversary Special Premium Live 高田馬場
5月1日(火) 高田馬場AREA「Bring it with all your strength!」~Produce by HIROKI~
5月2日(水) 高田馬場AREA「激赤」~Produced by Tsunehito~
5月3日(木・祝) 高田馬場AREA「I'll protect your backs!!」~Produced by HIDE-ZOU~
5月4日(金・祝) 高田馬場AREA「K.M.N.T~今年も皆で猫になって楽しもうぜぇぇぇ!!」~Produced by Ruiza~
5月5日(土・祝) 高田馬場AREA「L'amour de Vampire IV」~Produced by ASAGI~


※詳細はオフィシャルサイトへ >>D official website


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